-- 序 章 --

ブツッ。ブォン・・・・。
薄暗いマシンルームに淡い光が射した。
壁際にいくつも並んだ大小のディスプレイに次々と光が点る。
ディスクの唸りがしんとした空気を震わせ、ログオン画面が現れると、華奢な細い指が待ちきれないようにキーボードを叩いた。
真っ黒いダイアログの中をめまぐるしい速さで通りぬける文字の白い光が、青白い肌を照らす。
ゆるく編んだ長い髪を無造作にまとめ、小さな顔の半分はディスプレイの光から目を保護する大きな遮光グラスに覆われている。
結ばれた薄い唇と、ほっそりと通った鼻筋からその端正な容貌が窺い知れた。

すべるように滑らかに、そして迷いのない手つきで白い指がキーを走る。


数時間後、ようやく彼女は手を止めて額に浮いた汗をぬぐった。
マシンの排熱で部屋の中は蒸し暑い。
奔流のように流れていた白い文字がゆっくりと減速し、画面の隅に点滅するカーソルが現れると、彼女は数瞬、息を詰めたようにその文字を見つめた。

たった一行程の数列。
素人目には意味のない数字と記号の並びに見えるそのUNICODE配列を、彼女は母国語のように自然に読み解くことができた。

「蓋の・・・・上・・?」
確かめるようにゆっくりと、彼女はつぶやいた。
両手をこめかみにあてて、偏光グラスのついた大きなヘッドギアを外す。
怜悧な瞳があらわになった。
かすかにため息をつき、両手でまぶたを押さえて背もたれにもたれる。

数瞬の間。

彼女はなにか決意したように唇をむすび、再び背筋を伸ばした。
もういちど、彼女の小さな頭にはふつりあいなそのヘッドギアをかぶる。

マシンルームに、ふたたびキーボードを打つ音がひびいた。

<<continue>>

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