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「景麒、これを着てくれるかしら」
少し恥ずかしそうに、しかし幸せそうに頬を染めて景王が見事な織の袍を差し出したとき、景麒は正直面食らった。
「私に・・・、ですか?」
念を押してからそのに目を落とす。職人芸とまではいかないまでも、しっかりとした織の布地といい、金糸銀糸をふんだんにつかった豪奢な刺繍といい相当に手の込んだ品である。
「・・・これは主上が?」
「いつも景麒には苦労をかけてばかりだから・・・」
はにかんだような微笑み。
景麒はうるみそうになった瞳を慌ててしばたかせる。
その時になって景麒はようやく理解した。
自分はこれほどまでに辛かったのだ。
たった一人の主に疎まれていることが、嫌われていないと知ってうれしくて泣きたくな
るほど辛かったのだ。
「・・・気に入っていただけたかしら」
不安げな景王の声。
景麒は主をしみじみと眺めた。
白い肌に、長い黒髪。少女のようにきゃしゃな体つき。憂いをおびた顔つきに、いつもどこか遠くを見つめているような眼差し。
・・・・・お痩せになられた・・・。
登極した直後の、どこか幼さを残した線はもう失われてしまっている。
・・・・やつれたというほどではないが。
私は景王の幸せを奪ってしまったのかもしれない。
景麒は苦い思いを噛み締めた。
しかし、景王は一人しかいないのだ。
彼女がどんなに王座を嫌っていても、彼女が王であることは動かしようのない事実なのだ。
彼女のほかには誰も、景王にはなり得ない。
王になった以上、彼女には王としての責任を果たす義務がある。
彼女には酷なことかもしれないが、甘やかすわけにはいかないのだ。
「主上、お気持ちはありがたいが、あなたはこのようなものを作っている暇はないはずです。私にすまないと思われるのでしたら、せめて朝儀だけでもお出ましください」
「・・・・・・・・・」
幸せそうだった景王の顔が、一瞬はっとしたように目を見開き、ついで、しだいに悲しげに歪むのを、景麒は痛みと共に見つめた。
「わたくし・・・、王になんかなりたくなかったわ」
かみしめるようにつぶやいて、景王は身をひるがえす。
景麒はため息をついた。
----これでよかったのだ。 私は正しいことをした・・・はずだ。
景王の悲しげな顔が目に浮かぶ。
景麒はもう一度ため息をついた。
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