十二国名作劇場「くろきりんちゃん」

作央野マヨコ

*おやくそく*
1.【 】内の文字は読み方です。
    例えば、驍宗さま【おかあさん】となっていたら、驍宗様は「おかあさん」と読んで下さい。
    心の中で!

2.このお話は「赤ずきんちゃん」の絵本を参考にして書きました。
   というか、けっこうもとの文章に忠実に書いてます。名前変えただけって感じで。
   しかし泰麒はまりまくり。下記の「くろきりんちゃんは素直で、愛らしく、みんなひとめ見ただけでくろきりんちゃんが好きになりました。」なんて原文そのまま。
   恐るべし泰麒。

 

むかしむかし、載という国に蒿里というかわいい麒麟がいました。
蒿里は髪も目も真っ黒な黒麒麟だったので、みんなから「くろきりんちゃん」と呼ばれていました。
くろきりんちゃんは素直で、愛らしく、みんなひとめ見ただけでくろきりんちゃんが好きになりました。

ある日、 驍宗さま【おかあさん】が言いました。
「蒿里、悪いがこの養命酒【ワイン】と、 蓬山印の甘納豆【おかし】を景台輔【おばあさん】に届けてくれないか。景台輔【おばあさん】はどうも失道中【ご病気】らしい。
おまえが見舞いにいけば喜ぶだろう。
慶は遠いから、あまり無理をしないようにな。寄り道するんじゃないぞ。慶についたら行儀よくするんだぞ。景王(この時はまだ予王)は気難しい方らしいからな。金波宮に入ったらきょろきょろするのではないぞ」

「はい、驍宗さま」
くろきりんちゃんは 驍宗さま【おかあさん】に約束しました。
そして驍宗さま【おかあさん】の手を握りました。
驍宗さま【おかあさん】は心配でたまりません。

「よいか、蒿里。寄り道などせずにまっすぐにいくのだぞ。使令もいるし大丈夫だとは思うが、万が一ということもあるし・・・。
ああ本当に私がついていってやれればいいのだが。
地図は持ったか?知らない人にはついていってはダメだぞ。なんといってもおまえは素直だし、かわいいし。誰が邪心を起こすか。ああ心配だ。やはり私が・・・。
しかし、一国の王が見舞いに行くとなると大掛かりになるし、私にはやらなければいけないことがたくさんある。
いや、決しておまえより政務が大切というわけではないのだ。本当は政務なんかほっぽっておまえと・・・。いや、なんということをいっているのだ私は。王たるものが政務をさぼりたいなどと。だが私は蒿里が心配なのだ。ああ私はいったいどうすればいいのだ!」

驍宗さまは今にも壁に頭を打ちつけそうな勢いです。
なにはともあれ、くろきりんちゃんは慶に出かけることになりました。

 

慶の国は、くろきりんちゃんの国から、海を隔てた対岸にあります。ようやく慶の沿岸にたどり着いた時、くろきりんちゃんは騎獣【たま】に乗った延王【おおかみ】に出会いました。
でもくろきりんちゃんは延王【おおかみ】がどんなに危険な人物【おそろしいけもの】か知らなかったので、ちっとも恐くありませんでした。

「おや、これはくろきりんちゃん。こんにちは」
フッと口元に妖しい微笑を浮かべて延王【おおかみ】が言いました。
「あ、延王【おおかみさん】こんにちは」
にこにこと、くろきりんちゃんは答えました。

「一人でどこにお出かけかな?」
「金波宮【おばあさんのおうち】に行くんです」
「その荷物はなんだ?」
「養命酒【ワイン】と 蓬山印の甘納豆【おかし】です。景台輔【おばあさん】が失道中【ご病気 】と聞いて、お見舞いに行くところなんです。これを食べて元気になっていただこうと思って」

「・・・養命酒はともかく、なぜ甘納豆なのだ?」
「景台輔のご好物なんです。特に蓬山印の甘納豆は、一日30袋の超限定品で、発売時間の朝10時には門の前に長蛇の列が出来るありさまで・・・。
ここだけの話、景台輔が蓬山公でいらした時は毎日甘納豆を買い占めてらして、二十年くらい販売できなかったらしいですよ。今でもたまにお帰りになっては、大量に買い占めていらっしゃるとか」

「・・・・甘納豆を・・、一日30袋・・・?」
「蓬山印の甘納豆は特別です。海桐花【とべら】の蜜が入っていて・・。蓬山印の甘納豆が嫌いな麒麟などおりません。ぼくも大好きです」
「・・・おまえも一日30袋食べるのか?」
「ぼくはそんなに食べません。せいぜい一日5袋くらいです。・・普通は一日10袋くらいだそうですけど」
くろきりんちゃんはにっこり笑いました。

「むかし、女仙に命じて一日40袋も作らせていた麒麟もいたそうですよ」
「・・・・・・・」
 麒麟おそるべし。
延王は甘納豆をラッパ飲みしている景麒を思い浮かべて思わず身震いした。
そういえば六太も甘いものが好きだったな、と思い出す。
麒麟が人でないことは十分にわかっていたが、あらためてその人ならぬ特性を思い知らされた気がする。
麒麟というよく見知った者達が、突然得体の知れない生き物に思えてくる。

「どうかなさいましたか?延王」
不思議そうなくろきりんちゃんの声に、延王ははっと我に返った。
くろきりんちゃんが、きょとんと自分を見つめている。
(か、かわいい・・・!)
延王の心の中を、ゴオッと煩悩という名の嵐が吹きぬけた。

(なんと愛らしいのだ!こんな年端もいかぬ子供は射程範囲外だと思っていたが、これもなかなか・・・。口うるさい保護者【驍宗】も、小姑【景麒】もいないことだし。
なぁに国際問題に発展したってかまうものか。立ったばかりの慶や載などこの延の敵ではない。私は延王【おおかみ】。王【けもの】の中の王【けもの】なのだ!)

先程感じた麒麟への恐れなどどこ吹く風。
延王【おおかみ】は、くろきりんちゃんのやわらかそうなほっぺや、ふっくらした手がおいしそうで、たまらなくなってきました。
(注、この文章は絵本を忠実に写したものです)

(待てよ、ここでこの子供を襲うのは簡単だが、下手に騒がれて使令を呼ばれると困る。何とかうまくだまさなくては。そういえば景麒【おばあさん】は失道中だったな。病気の麒麟を手込めにするのもまた一興。フフフ)

「あの、延王【おおかみさん】?」
蒿里は思わずあとずさった。延王の周りに何か妖しい紫がかった靄のようなものが漂っているように見えるのは気のせいだろうか。
それに口許の妖しい笑みは何なのだろう。

「そういえば、くろきりんちゃん」
延王【おおかみ】が何か思い付いたようにたずねました。
「傲濫以外の使令は出来たか?」
「い、いえ、まだ・・・」
「それはいけないな」
きらり、と延王【おおかみ】の目が光りました。
「おまえは使令の下し方を景麒【おばあさん】から習ったのであろう?景麒も自分の教えかたがまずかったと気にしていた。黄海で使令を下して、景麒に見せてやったらどうだ?きっと喜ぶ」
それはとてもいい考えのように思えました。

(まだ十分時間もあるし・・・)
くろきりんちゃんは頭の中で、自分に言い訳しました。
(もし新しい使令を下すことが出来たら、景台輔【おばあさん】はきっと喜んでくださる。景台輔はあんなに親切にいろいろ教えてくださったのに、ぼくはその期待に応えることが出来なかった・・・。今度こそ、景台輔【おばあさん】を喜ばせてさし上げるんだ!)
くろきりんちゃんは決心しました。

「いい案をありがとうございます、延王【おおかみさん】
「いや、なに。思い付いたことを言ったまでさ。ではな」
おおかみ延王は、言うなり一直線に去っていってしまいました。

 

「・・・黄海」
くろきりんちゃんの前には、見渡す限りの緑の樹海が広がっています。
「はやく、妖魔を捕まえないと・・・」
くろきりんちゃんは、黄海の木々の間をあちこち歩き回りました。
「ええと、復習、復習」
くろきりんちゃんは景麒【おばあさん】に言われたことを一生懸命思い出しました。

『よいですか、くろきりんちゃん。妖魔を避けるには兎歩。妖魔に出会い、視線をあわせるのを避けるには、叩歯。気を集中するには前歯を鳴らす鳴天鼓を』

そう言って、景麒がくろきりんちゃんの前でそれぞれを実演してきた日のことをくろきりんちゃんはっきり覚えている。

「妖魔が近寄れない様にするには、兎歩と叩歯を同時にすることです。兎歩とは、ウサギの歩み。叩歯とは読んで字の如く、歯を叩きあわせること、まず兎歩から」

そう言って、景麒はおもむろに、がばっと袍の裾を左右の腕でまくりあげたのだった。
そして---------。

「ウッ!」
はっきりと発音しながら、景麒は右足をだん!と出した。
くろきりんちゃんが思わず一歩あとずさる。
「ホッ!」
今度はビヨン!と左足を出す。
「ウッ!ホッ!ウッホッ!ウッホ!ウッホッウッホッ・・・」
声にあわせて、リズミカルに両足を踏み出す。
妖しいかけ声をかけながら、ぴょんひょんと左右に飛ぶ景麒は異様の一言に尽きた。

「わかりましたか、くろきりんちゃん」
ややして、景麒がいつも通りの無表情で、クールに問いかけた時、くろきりんちゃんは目を見開いて硬直していた。
何か答えようと思うのだが、頭の中が真っ白になって、何も考えることが出来ない。

「・・それでは次は兎歩と叩歯をいっしょにやります」
ただ口をパクパクさせるだけのくろきりんちゃんの沈黙をどうとったのか、景麒は情け容赦なく次の段階に入った。

-----そしてくろきりんちゃんは、このときなにも言えずに突っ立っていただけの自分の不甲斐なさを一生呪うことになる。

後に、同行した汕子が述べたところによると、上下の歯をガッチンガッチンと噛み合わせながら、ぴょんぴょんと左右にリズミカルに飛び跳ねる景麒の姿は、この世のものとは思えないほど怪しかったという。

この日の景麒の姿は、その後三日三晩くろきりんちゃんの安眠を妨げ、さらに、今となっても時々夢に現れては、くろきりんちゃんを苦しめる。

(今考えてみると・・・)
黄海をさまよいながら、くろきりんちゃんはため息をつきました。

(あの動作はそれ自体に魔を祓う力があるというよりは・・・、あまりの異様な姿に妖魔がびびって襲ってこないだけなんじゃあ・・・)

なんにせよ、とりあえず今回はあの動作をしなくていいんだな、と思うだけでくろきりんちゃんは幸せな気分になるのでした。


 

 

その頃、延王【おおかみ】は一目散に 金波宮の景麒の部屋【おばあさんのうち】に駆けつけると、ドアをトントンと叩きました。

「誰だ?」
「くろきりんです。養命酒【ワイン】と、 蓬山印の甘納豆【おかし】を持ってきたんです。開けてください」
「甘納豆?」
気だるげだった景麒【おばあさん】の声がうれしそうにはずみました。
「掛け金をはずせば開く。私は起きられない」
よく考えれば延王【おおかみ】がいくらくろきりんちゃんの声色をまねしても、間違えるわけはないのですが、甘納豆で頭がいっぱいの景麒【おばあさん】が気付くわけがありません。

延王【おおかみ】が掛け金をはずすと、扉はばたんと開きました。
延王【おおかみ】はまっすぐにかけこんで牀榻【ベット】に飛びこむと、かわいそうなお景麒【おばあさん】を、ぱっくりたべてしまいました。


暗転


それから延王【おおかみ】は、景麒【おばあさん】のねまきを着て、景麒【おばあさん】のナイトキャップをかぶりました。
そして、周りの窓を閉め切って、部屋を暗くしておきました。

《注、この文章は絵本を忠実に再現したものです》

 

くろきりんちゃんは、黄海で、一生懸命妖魔を探しましたが、どうしても手頃な妖魔が見つかりませんでした。
そのうちにだんだんと日が暮れてきたので、しょうがなく、景麒【おばあさん】のところへ向かうことにしました。

くろきりんちゃんが景麒の部屋【おばあさんのうち】にやってくると、扉が開けっ放しになっています。
それに部屋に入ってみるとなんだか様子がおかしいのです。

くろきりんちゃんは胸がどきどきしてきました。
どうしたことでしょう。
(どうしてだろう。いつもは景台輔にお会いするのがとても楽しみなのに)
くろきりんちゃんは思いました。

「けいたいほ、おはようございます」
くろきりんちゃんが呼び掛けても、しいんとして返事がありません。

くろきりんちゃんは牀榻【ベット】に近寄って帳【とばり】をかきあげました。
するとそこには確かに景麒【おばあさん】が寝ていました。
でも、ナイトキャップを顔が隠れるくらい深くかぶって、いつもと様子が変なのです。

「けいたいほのおめめは何でそんなにギラギラしているの?」

くろきりんちゃんは言いました。

「くろきりんちゃんがよく見えるようにですよ」

「けいたいほのおくちは何でそんなにハァハァいっているの?」

「くろきりんちゃんに会えて嬉しいからですよ」

「けいたいほのおててはなぜそんなにごつごつしているの?」

「くろきりんちゃんを捕まえやすいようにですよ!」


そう言うがはやいか、延王【おおかみ】は牀榻【ベット】から飛びおきて、かわいそうなくろきりんちゃんをぱっくりと食べてしまい------。

 


「てめぇ、尚隆っ!何してやがるっ!!」

そこへ六太【猟師】が血相を変えて飛び込んできました。

「ろ、六太! おまえ【猟師】の出番はまだ先じゃあ・・・」
「出番がくるまで待ってたら、こいつ【くろきりんちゃん】がおまえに食われちまうだろ!大丈夫かちびっ!」
「あ、延台輔・・」
「大丈夫か。このケダモノに何もされてないな・・っ!」
はっと六太は目を見開きました。

「てめぇ、景麒【おばあさん】をどうしやがった?」
「ああ・・・」
延王【おおかみ】はため息をつきました。
「食ってやろうと思ったのだが・・、憔悴しきった顔で恨めしそうに『甘納豆・・』とぶつぶつつぶやいておるのでな。すっかり襲う気が失せて、ほれ、そこの箪笥に、身ぐるみ剥いで放りこんであるわ」
六太はあわてて景麒【おばあさん】を助けだしました。

「景麒っ!おい、生きてるか?」
六太の腕の中で景麒【おばあさん】はぼんやりと目を開きました。
「あ、甘納豆・・・」

「あの、それが・・、ぼく、落としちゃって・・」
くろきりんちゃんはしょんぼりとうつむきました。
甘納豆は妖魔を追っているうちに黄海で落としてしまったのです。

「養命酒【ワイン】ならあるんですけど・・・」
景麒【おばあさん】はがっくりと肩を落としてしまいました。

(驍宗さま【おかあさん】に言われたのに、黄海で寄り道なんかしてたからだ。もう寄り道なんてしないぞ!)

くろきりんちゃんは心に誓いました。

《おわり》