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「やっと来たな、景麒」
祥瓊達に案内されて、金波宮の一室にたどり着くと、そこはたくさんの人でごった返していた。
「これは・・・、いったい何の騒ぎですか?」
たくさんの、官や女官達の間に混じって、よく見知った顔がいくつもある。浩瀚、桓魍、柴望・・・、遠甫までそろっていることが、景麒を不安にさせる。
「いいからいいから。こっちだ」
陽子に案内されて、部屋の奥にいくと、人々の視線がいっせいに景麒に集まった。
(・・な、何だ?)
「さぁ、ここに座れ」
言って陽子は、壁際にある椅子を指差した。
何やら高価そうな、立派な椅子である。椅子の後ろにある青一色の屏風が、ますます景麒を不安にさせる。
「主上・・・、これはいったい?」
陽子は答えない。引きずるように景麒を連れていくと、強引にその椅子に景麒を座らせる。
「絶対そこを動くなよ。命令だぞ」
念を押すと、後ろにいた女官に合図する。
やがて、大勢の人々が左右に割れ、何やら大きな道具を持った、一人の男が現れた。
(あれは・・・・)
景麒にも見覚えがある。
(確か・・・宮廷絵師!)
「景麒!」
はっと腰を浮かせかけた景麒に、陽子の声が飛ぶ。
「私の命令が聞けないのか?」
にこにこと楽しげに微笑む陽子に、景麒は言い知れぬ不安を覚える。
「こ、これはどういう・・、なぜ宮廷絵師が」
「今度、初勅推進ポスターを作ることにしたんだ」
陽子は機嫌よく答えた。
「ぽすたあ・・・ですか?」
きょとん、と景麒が問い返す。
「これですわ、台輔」
祥瓊が二尺四方ほどの紙を広げる。
『ほほえみの国、慶国。
----笑顔、それはしあわせへの第一歩----』
陳腐なタイトルの下に、恥ずかしいキャッチフレーズが踊っている。
くらり、と景麒の頭の中をめまいが襲った。
「とりあえず字の方はできてるんだけど、まだ絵の方ができてなくて・・」
ちらりと陽子が、景麒を見る。
何やらいやな予感に、景麒の胸が高鳴った。
「だからこのポスターに、景麒の笑っている絵を載せようと思って」
「ち、ちょっと待ってください。なぜわたしが・・」
景麒は慌てて口をはさんだ。
冗談ではない。
初勅を出した陽子こそがやればいいのだ。
「王になったばかりで顔もよく知られていない私より、顔のきく景麒の方がいいだろう」
「そんなっ!主上の初仕事なのですから、主上こそが・・」
「麒麟は国の象徴と申しますわ」
祥瓊がきっぱりと言い放つ。
「普段から笑う陽子より、めったに笑わない台輔の笑顔の方が、民に初勅の威力がわかって効き目があると思うの」
おっとりと、鈴が駄目押しの一言を放つ。
三人の見事な連携プレイに、景麒が太刀打ちできようはずがなかった。
「と、いうわけだ。・・・笑え」
「は?」
「笑えと言ったんだ。・・まさか王の初勅を広めるためのポスターに、台輔ともあろうものが協力できないなどと言うつもりはないだろう?」
にっこりと、陽子が悪魔の微笑を浮かべる。
ぐっ、と景麒は言葉につまった。
陽子の、祥瓊の、鈴の、そして部屋に集まったたくさんの人々の期待に満ちた視線が景麒につきささった。
なすすべもなく、景麒はうきうきと自分を見つめる陽子をにらみかえした。
(失道してやるっ!)
景麒は固く固く、決心した。
(覚えていろっ!いつか絶っ対に、失道してやるっ!!)
失道するもしないも、全ては王次第だということに、この時景麒は気付いていなかった・・・。
<<終わり>>
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