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氾王藍滌の優雅な一日
作:藤屋ねくたー
朝−起床:
氾王藍滌の朝は、一杯のお茶からはじまる。
「……美味しい」
そのお茶は澄んでいてかおり高く、素晴らしく熱かった。
藍滌は牀榻の上から、お茶を給仕した女官に目を向ける。
「おまえも、少しはましなお茶を入れるようになったね」
ありがとうございます、と女官は微笑む。
「藍滌様のお仕込みがよろしかったんですわ。一度に五十回もお茶を入れ直せば、私のような者でも、少しは覚えますもの」
「言うようになったねえ。前はベソをかくしか能がなかったくせに……」
笑いながら藍滌は、茶器を口元へと運ぶのだった。
午前−朝議:
宮中外殿にて朝議である。
三公六官、および諸官が座についている。
正面には氾王藍滌その人。そして側には氾台輔が控えていた。
「俊青…」
沈黙を破り、藍滌が声を発す。
「はっ」
禁軍左軍の将が答える。
「あい変わらず、さえない格好だねえ」
「はっ…?」
「着替えておいで」
「ははぁーーーっ」
――その日の朝議は、定刻より一時間 開始が遅れた。
午前−政務:
引き続き外殿の一室で、午前の政務を行う。
側にはやはり、氾台輔が控えていた。
「主上、雁州国国王よりの親書でございます」
官が、一通の書状を奏上する。
「読め」
「はっ…?」
「私は、あの者の筆など見ないよ。目が腐るからね」
「はっ、いや…しかし……」
ものは一国の国主からの親書である。おいそれと封を開くことはできない。狼狽する官。
そこへ、氾麟がぱたぱたと寄って来て書状を手にし、ささっと開くと、目を通し始めた。
読みにくい字ねぇーだの、変な言い回しだのと、ぶつぶつ言いながら手紙を読み進んで行く。
「……要するに、この前の港工事の件ね。うちから雁に工匠を貸した。えーとね、一言でいうと
『とりあえずは礼を言うが、貸しを作ったと思うなよ』…って内容かしら」
フッと笑みを漏らす藍滌。
「一応、返礼を出さねばなるまいよ」
「そうね、こういうのはいかが? もともと何も期待していない、なにしろ相手が――」
「――相手が、物忘れの早い猿だから……とな?」
はしゃぐ氾麟と、その主。
官は、音もなく静かに退出するのだった。
正午−昼餉:
氾王藍滌の昼食は、一杯のお茶からはじまる。
「……美味しい」
そのお茶は澄んでいてかおり高く……。
――以下、省略。
午後−政務:
宮中内殿にて、午後の政務を執る。
禁軍将軍−俊青の報告を受ける藍滌。
「…以上の理由により、早々に落ち着くものと思われます」
「うむ。……ところで俊青、その姿は何だい?」
「はっ…?」
「今朝、何とか見られる格好になったというに、もうそれかえ?」
「はあ、その…こちらの方が落ち着きますもので……」
有能で朴訥な将軍−俊青の現在の格好は、控えめに見ても垢抜けないものであった。
匙を投げる藍滌。
「よい………。勅命を以って許す。禁軍将軍俊青のみは、宮中での無粋な姿を寛恕する」
「はっ」
一瞬、相好を崩す俊青。しかし、すぐに顔を引き締める。
「はっ。恐悦至極に存じます」
「うむ。さがってよろしい」
「はっ」
退出する俊青。
一人となった藍滌は、フウとため息を吐くのであった。
午後−空き
午後の政務を終えると、珍しいことに予定が有らず、すっぽりと空いていた。
藍滌はこの期を利用して、久しぶりに城下に降りてみることにした。
氾麟もせがむので、一緒に連れていく事にする。
蠱蛻衫をまとった氾麟は、まるで小犬のように、街のあちらこちらを走りまわる。
藍滌はゆっくりと、その後を歩いて行く。
城下の街に変わりはなく、活気があり、それでいて穏やかであった。
氾麟にせがまれ、藍滌は街の芝居小屋をのぞいて行くことにした。
小屋に入ると舞台では、背格好のよく似た者同士が、漫談のたぐいをやっていた。どうやら、辛辣で歯に着せぬ口振りが人気の、二人組らしい。
藍滌は、しばらくのあいだ舞台を眺めていたが、やがて未練たっぷりな氾麟を促して小屋を出た。
「くだらないわね」
それが藍滌の感想であった。
夕刻−夕餉
氾王藍滌の夕食も、一杯のお茶からはじまる。
「……美味しい」
そのお茶は澄んでいてかおり高く……。
――以下、省略。
宵−就寝
氾王藍滌の就寝は早い。
なぜなら、夜更かしは美肌の大敵だからである。
なお、藍滌の寝間着姿はあたかも、山中の奥まった先に―――
(この箇所は自主規制により削除:筆者)
―――を裂き、混沌たる闇を思わせるものであった。
そして夜の静寂に遠く雲海の波の音を聴きながら、藍滌は安らかな眠りにつくのだった。
かの如き賢王が治むる範西国に、つねに平穏のあらんことを……。
−おわり−
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